今夜の〈仕事〉を終えたオレは、上空をハングライダーで旋回しながら家路に帰る途中だった。ふと、一つの家に視線が行く。
それは〈仕事〉の後のクセになってしまっている行為。
青子の部屋を見てしまう、クセ。
視線をやり、思いきりため息をついてしまった。
ベランダでなびくカーテン。青子の部屋だ。
「おいおい・・・。オマエ一応刑事の娘だろ・・・」
カタン。
なんでアイツの部屋に入ったのか。
ベランダ近くのイスに眠る青子を見たら、んな事考える余裕なんかなくなった。
そうっと青子を抱き上げる。
涙の跡と、冷えた身体。
長時間ここにいたのがわかる。
「・・・なにしてんだよ」
眠る青子に呟いてみる。
わかるけどな。
わからない振りをオレはする。
たぶんずっと。
ベッドに青子を寝かせて、毛布をかけてやる。
そしてなぜかオレは青子の首に両手を伸ばす。
青子の首に両手を添える。
オレが少し力を加えれば、すぐに呼吸を止めてしまうだろう。
―すぐに。
そんな事を考えたら、青子の瞳がふぅっと開いた。
焦点の合っていない目。
ぼんやりとオレの白い姿を映す青子の目。
まだ夢の中だ。
コイツが完全に起きてたら驚くんだろうな。
いや、怒鳴りだすか。
目の前にいるのは〈キッド〉なんだぜ、青子?
なのに。
「かい・・・と・・・?」
寝惚けたままで〈快斗〉を呼ぶ。
なんで分かるんだよ。
いつもは全然気がつかねぇクセして。こーゆー時だけオレだって気付くなよ、アホ子。
ゆっくり笑って、オレの指をきゅっと握る。
「・・・快斗だぁ・・・」
そしてまた瞳を閉じて眠ってしまう。
なぁ。
オマエの笑顔を見るたびに、オレは罪悪感が溜まっていくんだ。
一番オマエには正直でいたいのに。
いつでもオレはそれに逆らってる。
オマエの笑顔を見るたびに、オレは思うんだよ。
〈イッソノ事コノ存在ヲ消シテシマオウカ?〉
後悔するどころじゃなくなるって分かってる。
それでオレの気持ちがどうなるわけなんかじゃねー、けど。
「青子・・・・」
一つ青子の額に口付けを落として。
「いい夢、見ろよ?」
青子から離れる。
この罪悪感は、たぶん、ずっと抱えていく。
お前を思えば想うほど。〈キッド〉となって動くほど。
―これは、真夜中の代償。
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